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ビスケットの缶

吾輩は猫である

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くるみパンをマスカルポーネチーズとメープルシロップでいただく。シアワセ。

吾輩は猫である。名前はまだ無い。

有名な書き出しのその続きを知らなくて(昔、中学生くらいで手に取って、途中でやめてしまった)、今読んでいる。
猫の目線が今なお新鮮で生き生きと感じる。
主人公の猫は仔猫のうちに親から引き離され捨てられる。ちょっと切ない場面からはじまる。
お腹を空かせて、苦沙弥先生の家のお勝手に忍び込むけれど、入り込むたびに何度も何度もお手伝いさんに外に放り出される。
いじらしくも健気で、愛嬌があって憎め無い、読みすすめるうちに、猫は飼ったことが無いけれど飼ってみたいと思えてくる。
飼い主の先生が、家族には勤勉家と思われているけれど実は書斎にこもっては読みかけの本の上によだれを垂らして昼寝している姿を見て、教師とは実に楽なものだと評してみたり、歯に絹着せず淡々とした語り口調がいい。
近所の美人猫の三毛子、車屋の家のべらんめえ口調の黒猫の黒との猫世界の交流だけでなく、先生の家にやってくる人々も実に面白い。
先生宅に好きな時にずかずかと入ってきてはホラ話ばかりする噺家のような迷亭、友人たちと朗読会を開催し船頭役や金色夜叉のお宮役をする詩人の東風、実業家の娘と思いを通わせそれがきっかけでひと騒動ある理学部学生の寒月(彼は「首くくりの力学」やら「蛙の目玉の電動作用」に関する研究など不思議な研究に真剣に取り組んでいる)、苦沙弥の妻…。
そうした人間模様を低い猫の目線からゆるゆると描きつつ、時にネズミと対決してみたり、近所を探偵してみたり、カマキリやセミをとって猫的運動をしてみたり、人間界と猫世界の行き来が興味深い。

読んでいる私は、時にクスクスと笑いが堪えきれず漏れて、小人に訝しがられている。
短編と勝手に思い込んでいたら予想外の長編で、猫の話だと思ったらそうでもなく、子供向きかと思えば子供には難しく、夏目漱石の他の作品とはだいぶ異なる飄々とした語り口(処女小説なのですね。)、いろいろな部分でいい意味で裏切られる楽しい作品に夢中になって読んでいる。

by cinnamonspice | 2015-09-28 11:35 |