ビスケットの缶

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簡単な手術を受けに病院に行った。
待合室で待っていると、男性が入ってきた。受け付けで、
「○○(名前)で予約しているんだけど」
と名乗った。
声だけが聞こえる。男性はイギリス英語のイントネーションがあった。
受け付けのお姉さんが
「彼女は何か薬を飲んでる?」
と聞くと、
「飲んでるよ。何しろ彼女は90歳だからね、長いリストになるくらい。」
と言ったので、待ち合い室のみんなが笑顔になった。
その時、ドアが開いて遅れておばあちゃんが入ってきた。
付き添いの男性はおばあちゃんに、ドアに近い入ってすぐの席に座らせると、
「この席がいいよ。いつでも逃げ出せるしね。」
と意味深に言った。おばあちゃんは、入った時から、
「Oh, my god. Oh, my god. 」
と繰り返している。どうやら病院が嫌いらしい。小さな声でブツブツ呟いた後、
「This is life.」
と言って、小さなため息をついた。
おばあちゃんがつぶやく“life”という言葉はとても説得力があって、なぜか目の奥が熱くなった。
治療を終えて帰る患者さんが
「Good luck」
と待ち合い室の人たちに言って帰ろうとすると、おばあちゃんが、
「Is it hurtful?」
と聞いた。
「No.」
と女性が笑顔で答えると、
「ほら、言っただろう、痛くなんかないって。」
と、付き添いの男性が言った。
90年も生きていたら、怖いものはないだろうと思っていたけれど、おばあちゃんが小さな女の子みたいに怖がっている様子が可愛らしかった。
私が治療を終えて帰ろうとしたとき、
「Good luck, young lady.」
と、おばあちゃんが言ってくれた。おばあちゃんこそ。心からそう思った。
そのとき、初めておばあちゃんの顔を見た。
白髪の90歳のおばあちゃんの顔には見事なくらいのしわが刻まれていた。
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by cinnamonspice | 2015-03-12 02:59 | まいにちのこと | Comments(6)
Commented by cloversdesign at 2015-03-12 08:41
なんだか光景が浮かんできます。
こちらにいるとありがちな…(笑)
お互いにGood luckといいあったり少しの時間をみんなと共用してる、その場限りなんだけど、
いつも何かしらストーリーがあるような気がして待合室の雰囲気好きです
Commented by cinnamonspice at 2015-03-12 13:30
+ cloversdesignさん+
アメリカは人の距離が近いですね。
関東出身の私には特にそう感じます。(関西に行ったときもそう感じましたが。)
病院の待ち合い室や郵便局(の長い列)、エレベーター、スーパーのレジで、ふとしたところで会話が始まってわきあいあいと話に花が咲いたりすることがよくありますね。
病院の待ち合い室はみんな何かを抱えている人たちですので、なんだかみんな心が寄り添うようであたたかかったです。
90歳という年は私にはとてつもなく遠いかなたに感じますが、そのおばあちゃんの可愛らしさに胸がくすぐったくなりました。
Commented by れい at 2015-03-13 10:13 x
こんにちは。
「good luck」と言い合える雰囲気がいいですよね。知らないもの同士でもそういう気軽に声を掛け合える習慣(国民性?)がとても好きです。私の住む地域ではなかなかお目にかかれません。逆に話しているとうるさそうな顔をする人の方が多くて、余裕のなさと人との関わりの希薄さを感じます。

ですが先日バスの中でこれと似たようなことがあって、久しぶりにほっこりしました。大きな登山リュックとスキー板の入ったバッグを担いで乗ってきたおじさまに、はじめは迷惑そうな顔をしていた他の乗客たちが、ちょっとしたきっかけで話しかけたんです。そこから山スキーに行く話や趣味の話、年齢の話(その方はなんと70歳でした!)、病気の話と広がり、とても賑やかな車内になりました。先に降りる人たちが「気をつけていってらっしゃい!」と声をかけていて、田舎の乗り合いバスのようで懐かしくなりました。

「This is Life」もそうですが、日本人であるcinnamonさんにかけてくれた「Good luck young lady」という言葉、90歳のおばあちゃんが言うと本当に深い。色々と感じるものがあったんでしょうね。長い時を過ごしてきた人間ならではの慈愛を感じました。
Commented by cinnamonspice at 2015-03-13 15:00
+れいさん+
こんにちは。
アメリカはレジでも、「How are you?」から始まりますし、人の距離が近く感じます。
「Good luck」の話を母にしたら、日本では病院で「お大事に」というといわれて、なるほど、と思いました。でも、なかなか見知らぬ患者さん同士でそういう会話はあまりないかもしれませんね。

バスの中での会話のお話、すごくあったかいですね。
難しい顔をして乗っている人々も、小さな会話がきっかけでみんな心が解けるのですね。
アメリカ人はそういうきっかけ作りが上手かもしれません。
とおりすがりに、突然、靴を褒められたりすることもあります。
褒められていやな人なんていないので、いい習慣ですよね。

90歳のおばあちゃんのお顔のしわと言葉はとても重みを感じます。それでいて、いつまでも女の子のようなおばあちゃん、本当にかわいらしかったです。
Commented by livingingrace at 2015-03-23 18:47
cinnamonさん、こんにちは!

先週まで出張でアメリカに行っていたので、知らない物同士でも気軽に声を掛け合うその風景がすぐに目に浮かびます。
How are you ?のご挨拶から始まり、引き続き ”Have a nice day" の言葉など、知らない町にいながらも、こういう風に言ってもらえるのは、ほっとしますよね~

褒められるというのも嬉しいものです。私もスターバックスでコーヒーを買おうと思い、列に並んでいると、” 素敵なお洋服 ”と褒めていただいたり、お店ですれ違いさまに、”そのバッグの色、とても素敵、私その色好きです~”と言ってくださったり、そういう時に、自分の選んだものをいいって言ってくださる方がいるなんて、ちょっと感激したりします。

思ったことを素直に感情表現できるのは、羨ましいなと思いました。そういう文化の中で暮らすと言うことは、人と人のつながりがもっと深くなるのかなと思いました。

90歳のおばあちゃん、病院が嫌いで小言を言う中、cinnamonさんに「Good luck young lady」と声を掛けてくださることを忘れなかったのも、そういう人とのつながりを自然に振舞える習慣が、う~んと昔から身についているからでしょうね。
本当に深みのある言葉だったと思います。

Commented by cinnamonspice at 2015-03-24 14:10
+ livingingraceさん+
こんにちは。
お帰りなさい!
アメリカから帰られたから、あれ?なんだかおかしいですね。

見知らぬお店の人ともHow are you?から始まる、アメリカは人の距離が近いですよね。
褒められる経験もうれしいものですね。
バッグの色やさりげない小物を褒められたりすると、秘密を共有したような、わくわくした気持ちになります。
思ったことを素直に表現できる、本当、アメリカは人と人との付き合いが自由で風通しがよくて気持ちがいいですね。
同じことを日本でしたら、変な人だと思われてしまうと思います。(汗)

90才のおばあさんの言葉は重みを感じました。
それでいてチャーミングで、とてもすてきなおばあさんでした。