ビスケットの缶

 ザイオンでは風のことを考えていた。快晴だった初日の夜、強い風が大木を揺らしていた。明け方、さぁーっという雨音のような音で目を覚ますと、岩山を駆け下りてきた風が木の葉を揺らす音だった。何度も何度も。夜が明けると風は止んでいて、風が運んだ白い雲だけが、波に洗われた貝殻のように空に残されていた。その日の夕方、また強い風が吹いた。風は小さな雨雲を運んでくると、何事もなかったようにぴたりと止んだ。そして、どこからか雨のにおいがして、しとしとと降り始めた。雨が岩山をぬらし、ところどころが赤から黒に変わっていく。雨は岩山の赤の色や木々の緑の色を濃く染めて、あたりの景色は晴れていたときよりも迫力を増していた。

 3日目の朝、一瞬朝日が山の先端を黄金色に染めたと思うと、少し目をそらしたうちに魔法は終わっていた。ほんの5分ほどの出来事だった。
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次の瞬間には、ふんわりとした雲の綿布団が赤い岩山の上にかけられた。風が吹いては雲の形を変えていく。私たちは釘付けになったまま、デッキで山を見つめる。しばらくすると山を竜が昇っていくような形の雲が現れた。
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また少しすると、竜は消えていた。目に見えない風がひと撫でするごとに山の天候を変えていく。風は気まぐれに気の向くままに吹いて、どっしりと雄大な岩山も、木々もそこにすむ鳥や鹿や野生の動物たちも、その風の下生きている。生きることは風と似ていると思った。いい風が吹くときもあるし、悪い風が吹くときもある。風の吹く方向や強さを知り、その風をうまくとらえることが大切なんだ。
 雨でZionでのトレッキングはあきらめて、次のBryce Canyonへと出発した。
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激しい雨に滝がなかったところにも、このときだけの滝が次々と現れた。

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by cinnamonspice | 2014-08-24 23:02 | まいにちのこと | Comments(0)