ビスケットの缶

夜明け

c0033994_14404790.jpg

 私にとって、キャンプでひとつ困ったことは眠れないことでした。自然の中に身を置きながら、ビーチの近くでは波の音、線路が近くにあれば列車の汽笛、静かなところでは虫の鳴き声が気になって眠れずに、最後はタイレノールのお世話になって不自然な眠りにつくのでした。
 Joshua Treeでは、夜が更けるにつれ風は強さを増していくようでした。テントが揺れると吊るしたほおずきライトも揺れて心細い気持ちになりました。小人や弟小人だんなさまは早々と眠りについた中、一人静寂に包まれました。眠れないのを予想して、寝袋に入る前に眠るためのハーブのサプリメントを飲んだりしたものの、怖がりな私にはまったく効果はなく、目を閉じると、遠くでざぁーっと大きな岩山を駆け下りる風の音が聞こえました。比叡山で聞いた松の木々を抜ける風の音とは違う、山から何か大きな生き物がこっちに向かってくるような少し不気味な音でした。その音がしてしばらくすると、風でテントが揺れました。風はひと思いに駆け抜けるとぴたりととまり、またしばらくするとまた音がしてテントが揺れました。時折、横風にテントが浮くような感覚がして、ふと、エベレストなどの登山家のことを思い出しました。私はまだこんな程度の風と寒さの中にいるけれど、冬の山を登る登山家たちは、極寒の吹雪の中テントですごす時間はどんなに不安で怖いだろうと思いました。こんなに臆病な私は登山家にはなれないと思いました。
 これ以上、風は強くなるのか心配になって、恐る恐るテントから顔を出してみると、思ったほど強い風が吹いているわけではなく、肩透かしにあったような気がしました。ただ、私の中に吹く臆病風が怖がらせているだけだと思ったら、ちょっと可笑しくなって自分たちの小ささを思い知る気がしました。頼りなく揺れるライトと、ばさばさと音を立てるテントを眺めながら、厚い壁で守られた’家の中では感じることのない無防備さが心細く感じました。ずうっと昔、夜には月と星しかなかったころ、夜の闇という不安に昔の人はきっとこんな風に夜をすごしていたのだと思いました。電気が発明されてその暗がりから解放されて、実はまだそんなに歴史は経っていないのだということも。自然には怖いものがたくさんあって、人は怖いから道具を発明してきたのだと思いました。そもそも自然はやさしくて怖いのだと。
 夜中の二時半、隣のサイトからは2歳くらいの子の泣き声が聞こえました。同じように眠れない私は、その子の気持ちがわかるような気がしました。夜明けは途方もなく先にありました。
[PR]
by cinnamonspice | 2014-04-01 16:25 | キャンプ