ビスケットの缶

窓からの景色

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秋色のタイツを履いてでかけました。
missoni×targetのコラボの靴と。

 夜中、小太鼓を打つような雨音で目を覚ましました。ぼんやりいろいろ空想するうち、日本へ帰ったとき目にした景色を思い出しました。
 私が小さいころ、母と百貨店へ行くたびに何度も目の前を通った駅ビルの中にある紳士物の英国スタイルのスーツを扱うテーラーがありました。20数年という年月で、さまざまなお店が変わったけれど、このお店だけは変わらずずっとそこにありました。ひっそりとチョコレート色の木製の壁で覆われたお店は、入り口からそっと、ずらりと並んだスーツを垣間見る以外は、子供で女性の私には踏み入れることのできない大人の匂いのする秘密の箱のような場所でした。その箱の秘密を知ったのはこの夏のこと。日本へ帰ったとき、ふとそこに一メートル半くらいの横長の窓ができていることに気がつきました。窓と同じ高さにテーブルが置かれ、そこに、きりりと真っ白なシャツにベストを着たスーツ姿の若い男性が、型紙をおいた布の上に木製の定規を置いて、製図しているところが見えました。細やかにいくつもの採寸の線が引かれた、アンティークピースのような美しい型紙を手に、両腕を広げ黙々と迷いなく線を引いていく姿はとても心地よく目に映りました。それは、職人としての誇りをまとい、儀式を行うような凛とした空気があり、いつまでも見ていたいような美しい景色でした。ひとつひとつ息吹を吹き込むようなたくさんの丁寧な工程を経て、できあがるスーツの着心地は特別だろうなぁと、女性の私もまぶしく感じました。しばらくうっとりと眺めたあと、秘密の小箱をのぞいたような、ほくほくとした胸を抱えて帰ったのでした。
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by cinnamonspice | 2011-11-12 22:07 | すきなもの | Comments(4)
Commented at 2011-11-13 01:30 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by Shin's mama at 2011-11-14 05:09 x
ステキですよね。うちの母は和裁も洋裁も習った人ですが、紳士服だけは本当に難しい世界で、とてもとてもムリ、と言っています。厳しくて美しい世界。わたしも覗いてみたかったかも。ところで、「白いおうむの森」、届きました。不思議な世界と、それによく調和した挿絵で、まずわたしが先に楽しんでいます。
Commented by cinnamonspice at 2011-11-14 19:35
+鍵コメントさま+

こんにちは。
昨日はおいしいお土産、ご馳走様でした。

日記に書いた歴史あるテーラー、鍵さんが仰るとおりです。木製の壁に控えめにかかれた看板の金色の文字も、小さいころとても大人に映りました。おそらく前までは窓はなかったと思うのですが、私の記憶があっていますか?
マジシャンのようなテーラーの人の美しい動きに、うっとりと見入ってしまいました。こうした専門店は減っていく傾向があるように感じますが、職人さんの動きってかっこいいですよね。(余談ですが、私は靴の修理のお店とかも、職人さんの動きを見ているのが好きです。)裁縫も、小さいころから母がする様子は見てきたけれど、男性の裁縫する様子はとても新鮮でどきどきしました。
Commented by cinnamonspice at 2011-11-14 19:46
+Shin's mamaさん+

Shin's mamaさん、こんにちは。
紳士服の世界、確かに細やかなパーツがたくさんあって、こだわりもあって、見た目はシンプルだけど、とても贅沢がこめられた世界ですよね。その難解さやその贅沢さのせいでしょうか、普段、私がするような裁縫とはまったく別の色っぽさを感じました。その難しい世界を背筋をぴんと伸ばして、マジシャンのようにするすると難なく製図していく様子は、とてもかっこいいなぁと思いました。音もなく、そっと窓から覗いているというのがまた楽しいものですね。
 「白いおうむの森」の本、手にされたのですね。とろんとした水色の背景にたくさんの白いおうむが描かれた装丁も幻想的で美しいですよね。美しくて謎めいてひんやりと首筋をなでられるような不思議な世界、安房さんの描く世界は子供も大人も楽しめますね。