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ビスケットの缶

父の庭

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 実家へ帰った日、いつものように父の庭が最初に迎えてくれたとき、あぁ、帰ってきた、という気持ちになりました。これまでも、少し見ない間に大きな木が移されていて驚いたこともあるけれど、二年ぶりの庭は大きな変化はなく、その中でひときわ目をひいたのが、他の植物の上を這うようにして一番日当たりのいい場所を占めていた赤や黄色のミニトマトでした。このトマトは今年植えたものだそうだけれど、新顔とは思えないほど、お日さまに向かって気持ちよさそうにのびのびと緑の手を広げていました。母に話すと、



「お父さんはね、剪定ができないの。」
と、いう答え。母の話では、いつも母の友達でガーデニングの達人が来るたびに、
「ほら、ここは切ってあげないと花が咲かないわよ。」
などと叱られているのだとか。たとえ花を咲かせなくても、どの子も平等に真心で向き合えばいつか心が通じる?(花をつける)というのが父流。父にとっては、植物に何かを求めるのではなくて、草や花が思い思いに育っていくのを見るのが好きなのかも。のびのびと育っていたミニトマトの訳がわかったような気がしました。
 そんな父の庭にはバラや百合といった華やかな花はなく、唯一の花形は、先の母の友人に分けてもらった気まぐれに花を咲かせる欄(気まぐれなのは、剪定が苦手な父ゆえかもしれないけれど)。母によると、父が選ぶ花は、名前も広く知られていない雑草に近いような小さな紫色の花が好きなのだそう。そう話す母の言葉を聞いていたら、もしかしたら花の好みのように、目の前に立つ父が選んだ女性(母)もそうなのかも、という思いが頭をよぎって、一人笑みがこぼれました。
 自分ばかり狙われるという(父談)、蚊対策の蚊取り線香の懐かしい匂いのなか、昼間、父が作った真っ白な小さなベンチに座っていると、蝶や蜂などの来訪者が後を絶つことなくやってきていました。小さな来訪者を眠そうに時折目で追いながら、木陰でうとうとまどろむ犬。それらを見渡せる小さな特等席に座っていると、みんなに包まれているような安心感がありました。庭はその人をあらわす、という言葉をどこかで耳にしたように思うけれど、父の庭には父の人柄が表れているように感じました。
 今回、のびのびとつるをのばしていたミニトマトともうひとつ印象に残ったのは、線香花火のような繊細な葉が目にも涼しい、鑑賞用のアスパラガスでした。そのみずみずしい緑は、暑い夏にどんな花よりも印象的でした。
by cinnamonspice | 2009-09-02 14:47 | いろいろ